グルメ

株式会社 杵の川
諫早唯一の蔵元として、諫早を愛し、酒造りに心をこめる

【住所】諫早市土師野尾町17番地4
【電話番号】0957-22-5600
【URL】http://www.kinokawa.co.jp/kuramoto.html

「人生を豊かにする酒を造りたい」

杵の川の社長、瀬頭信介さんのその言葉を聞いたとき、正直、胸にグッと迫るものがあった。

 

我が家は夫婦で晩酌をする。

夫も私も日本酒党である。もちろん、ワインやビールも飲みはするが、冬の寒い日、美味しい地物の刺身をあてに日本酒の熱燗を頂くと、日本人で良かったとつくづく思う。

上手い酒は人を饒舌にする。
仕事の事、子どもの事、これからの事を、互いに酌をしながらゆっくりと語る。
私たち夫婦にとって、日本酒は人生に深みを与え、豊かにしていると言っても過言ではなかろう。

杵の川は、諫早で唯一の蔵元であるが、決して順風満帆できたわけではない。

創業は1893年と百年以上もさかのぼるが、これまで合併や他地域の酒造の営業権を引き継ぐなどして、幾度となく山あり谷ありの道を歩んできた。

 

4代目の社長、瀬頭信介さんが、杵の川酒造に入ったのは平成11年、30歳の時。

家業の後を継ぐ決意で修業をし、舞い戻ってみたが、まわり回って耳に入ってくる自社の酒の評判は、どれもイマイチなものばかりだった。
「合併や営業権を引き継ぐ過程で効率化を図るあまり、本当は一番守らなければいけなかった酒の味をおろそかにしていたのもかもしれません」

 

今の杵の川の酒の味に自信がなかったら、言えないセリフである。何とも潔い。

 

多良山系の上質な地下水を100%使用し、受け継いだ低温発酵のシステムで育てるというこだわりの製法はそのままに、新たにこれまでは効率化のため省いていた精米の工程を、ゆっくり手間をかけて行うことで、上質で奥深い味のある酒が出来上がったという。

 

口に含むとキレのある深い味わいとともに、透明感と優しさが喉の奥にスーッと流れ落ちる。

中でも代表作の「杵の川」は香りが主ではなく味覚に訴える味だが、樽の香りとほのかな甘さが口に残る優しい味わいの「うなぎ上り」は、日本酒が苦手な女性でも食中酒として楽しめる逸品に仕上げっているのではないだろうか。

 

先代会長で信介さんの父にあたる瀬頭昭治さんは、平成25年8月に亡くなるまで、地元諫早の観光物産コンベンション協会の会長を務めていた。
諫早を愛し、最期の最期までこの諫早の発展を考え、力を尽くされた。

 

「私はいい酒を造ることで、『諫早』を発信していきたい。諫早唯一の酒造蔵元として『諫早』の良さを一人でも多くの人に伝えていきたい」

静かに、しかし自信に満ちた声で、そう語る信介社長のまなざしはとても優しい。

 

効率化を図ることを優先的に考えてきた時期から一変、米の磨き方を変えたりひと手間加えることで酒の味に磨きをかけ、現在では様々なコンテストや鑑評会で受賞するなど、名実ともに諫早を代表する美味しい酒を発信し続けている。

昔と変わってきたのは酒の味ばかりではない。社内の雰囲気も変わってきたという。

「うまい酒を造りたい」そんな信介社長の思いが、社員さんにも届いたのだろう。

 

「ゆくゆくは県産米と諫早の棚田を活用して作った諫早米だけで、杵の川の酒を造りたい」

最期まで諫早を愛した父の思いを、息子はしっかり受け継いでいる。

 

酒を愛し、この諫早を愛している4代目瀬頭信介社長が、気の優しい杜氏たちと造り出す杵の川の酒は、飲む者の「人生を豊かにする酒」としてこれからも飲み継がれていくことだろう。

今日も緑に囲まれた静かな山あいの酒蔵では、優しい笑顔の社長と杜氏たちが「うまくなれよと」酒造りに魂を注いでいるに違いない。

 

記事/内田輝美

写真/川原孝子

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