【住所】諫早市栄町1-13
【電話番号】0957-22‐0101
福田屋は、文久三年創業の老舗である。栄町アーケード内にある店舗は昭和四年に建てられ、アーケード側の表口から入っても、駐車場のある裏口から入っても、第二次大戦や諫早大水害という歴史を乗り越えた風格を感じることができる。
特に裏口から入ると、鯉が遊ぶ池を渡って暖簾をくぐり、左手に鰻の調理場を見ながら、ちょっとうす暗い風情のある廊下を抜けてテーブル席に辿り着く。これだけで、ちょっとした小旅行に出かけた気分になる。
現在店を切り盛りするのは、四代目の福田小惠子さん。幼いころから、父と病弱だった母が、福田屋の家訓「心で焼け」を守りながら店に立つ姿を見て育った。母親は、小惠子さんが高校1年生の時に帰らぬ人となり、父は再婚したものの小惠子さんが26歳の時に急逝し、義母と鰻を焼き始めた。
しかし驚くべきことに、うなぎ屋の命とも言えるたれの作り方は、父から伝えられていなかった。そのため、義母が中心になって福田屋の味を再現するべく、試行錯誤を重ねて今に至る。
小惠子さんは、29歳の時に高校の同級生で当時自衛官だった幹夫さんと結婚。小惠子さんいわく、向こうが惚れて養子に来てくれたそうだ。
昔から町の中心を流れる本明川には、有明海の海水が流れ込み、鰻がよく獲れていたため周辺には鰻屋が多い。そのなかでも、一番の老舗である福田屋は、昭和の時代にタイムスリップしたかのような趣のある空間で、鰻を食すことができる。
表玄関から入って左手に、「うなぎ」と書かれた丸くて古い大きな看板がある。この脇にある階段を昇った2階席では、今では入手できない、家紋の入った手作りのガラス窓から差し込む光が優しく拡がり、この店が刻んできた時の流れとともに香ばしい鰻を味わうことができる。
仕込みは朝早くから。活きのいい鰻を五代目の一夫さんが捌き、四代目の幹夫さんが、苦心して再現された伝統のたれを何度も刷毛で塗って焼く。夏場は、なんと1日で350匹を焼き上げるという。
そしてその鰻は、二重底になった楽焼の蓋付きの器で呈される。空洞になった底には熱いお湯が注がれているため、鰻はいつまでも温かい。うれしい心遣いだ。丹精込めて焼かれた最初の一口は、山椒などをかけずにそのまま味わいたい。馥郁とした香ばしいたれと鰻の風味が口いっぱいに広がり、なんとも幸せな気持ちになる。
平成25年の3月に、五代目の一夫さんは、3歳年上の和美さんと結婚した。育った環境が全く異なる二人だが、お互いに福田屋の看板を背負う準備を着々と進め、和美さんはその年のゴールデンウィーク過ぎには、店の一通りの仕事をこなせるようになっていた。今では一夫さんの右腕として、新しいメニュー「うなぎおにぎり」も開発し好評を博している。
そして、四代目の小惠子さんが義母と苦心して再現した伝統のたれは、すでに五代目の一夫さんに伝えられているとのこと。
一夫さんはプロポーズの時、和美さんに100円で買った木をくり抜いて結婚指輪を作り、和美さんに贈ったが残念ながら破損。現在2個目を作成中だが、多忙のためなかなか完成に漕ぎ着けないそうだ。しかしながら結婚指輪はなくとも、五代目夫婦の絆も固い。5月には六代目も誕生するという。家族の絆の強さもまた、福田屋の味の秘訣と言えそうである。
2014年1月6日/記:入江詩子
写真 Photographer MILK 川原孝子