【住所】諫早市飯盛町上原1162
【電話番号】Tel 0957(48)0576,Fax0957(48)0159
【URL】http://www.n-yamashin.com/
平成25年の冬。和食がひとつの文化として、ユネスコから無形文化遺産に登録された。正月のおせち料理や少し気取った懐石料理、家庭のご飯や味噌汁に至るまでが、残すべき大切な文化として世界から認められたのだ。食に関する無形文化遺産は5件目。「日本の和食」は「世界のWASYOKU」になった。
この誇るべき和食が並ぶ食卓に、なくてはならないものがある。「漬物」だ。一見、地味かもしれないが〝滋味″という言葉がしっくりくる漬物は、香の物とも呼ばれ、各地の気候風土に合わせ、先祖代々受け継がれてきた伝統食である。漬物があればご飯が何杯でもいけるという方も多いのではないだろうか。
飯盛町の国道251号線沿いに「おつけもの 試食して、おいしかったら買ってください」と大きな看板を掲げる店がある。
山に信と書いてヤマシン。諫早では数少ない漬物の専門店だ。
店内には、生姜、大根、キュウリ、ゴボウ、ワカメなどの粕漬けや味噌漬けのほか、梅干し、ガリ、らっきょう、キムチなど、
約30種類の漬物がずらりと並ぶ。看板どおり、常に試食が用意されていて、味見をしながら、お気に入りの一品を探すこともできる。
店の看板商品は、飯盛特産の生姜を使った粕漬けと味噌漬けだ。袋を開けると、ねっとりとした粕(味噌)の中に、しっかりと
飴色に漬かった生姜が、丸ごとゴロゴロと入っていて、芳醇な
香りに一気に食欲をかきたてられる。生姜は包丁がすっと入るほど柔らかい。これを薄くスライスして食卓へ。
ひときわ存在感を放つその一枚を、ご飯とともに頬張ると、
カリッとした食感とともに、生姜独特の香りと、ピリッとした
辛みが、まるで花が咲くように、口いっぱいに広がっていく。
噛めば噛むほど風味は増し、そして、のどや食道のあたりが、
カ~ッと熱くなる。生姜には、体を温める効果のあるショウガオールという成分が含まれていて、私を含め、冷え症に悩む女性の強い味方!もちろん、酒の肴としても最高の逸品だ。
ここまでくると、もはや、うまいを通り越して「心地の良い」漬物である。
店は、社長の鳥越重信さんが昭和49年に立ち上げた。
重信さんは隣町の東長崎出身で、中学卒業後、実父の命により、農家から生姜を買い付け市場に出荷する、家業の生姜卸行を手伝い始めた。主な仕事は行商。雨の日も雪の日も、重い天秤棒を担ぎ、全国各地を歩き回る毎日。苦労の連続だったという。
21歳で結婚し、将来を見据え「もう行商の時代ではない」と悟った重信さんは、翌年、注文販売の店を始め、生姜を漬物にする技術を学んだ。働き者の妻とともに、昼夜を問わず漬物作りに励み、39歳の時、生姜の栽培が盛んな飯盛に店を移した。
お客様に安心で安全な漬物を届けたいと、原材料となる野菜は、自家栽培。種付け、手入れ、収穫、漬け込みまで、全て自らの手で行っている。主流の生姜は、栽培に1年、漬け込みに1年。
とくに漬け込みは、酵母が生きている漬け床が高温に弱いため、夏場の温度管理には相当の気を使うという。この間に、生姜には色や味だけでなく、重信さんの愛情が染み込んでいく。
手間と時間をかけて作られるヤマシンの漬物は、地域の人たちに愛され、故郷を離れた地元出身者からの注文もあとを絶たない。
平成20年、父を陰から応援し続けてきた娘の浦川登美子さんが経営に加わった。県外からの電話注文に、「たまには帰ってきんしゃらんですか」と方言で優しく声をかける登美子さんの後ろ姿に、漬物の味はさらに深みを増す。
「店名には、山の頂上を目指して進み続け、大きくなることを信じている、そんな願いが込められているようです」と話す登美子さん。瞳の奥に、父の思いを受け継ぎ、店を守り続けたいという思いがにじみ出ていた。ヤマシンの漬物もまた、和食という文化のひとつとして次世代へと繋がれていく。
営業時間は午前9時から午後5時まで。(元日のみ店休)
「粕漬の生姜を食めばしみじみと なぜかこころに満つる食べ物」。壁に架けられた重信さんの言葉と登美子さんの笑顔が、温かく迎えてくれる店である。
2014年5月7日/
(追記:写真は消費税増税前に撮影したものです。商品代金には増税分が加算されます。ご了承ください。)